1973年愛知県生まれ、1995年愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸専攻学科卒業。制作に行き詰まりアーティストを辞めようとした時、部屋で7年間粗末に飼っていた一匹の金魚に初めて魅了され、金魚を描きはじめる。独自の超絶技巧によって国内外で高い評価を受けている。
Photo by SAKI WATANABE
金魚救い
ある日、「ああ、もう美術なんてやめてしまおう。」と思った。
自室で寝転がった時、ベッドの横にあった小さな水槽が目にとまった。
そこには七年前夏祭りですくってきた金魚が一匹いた。
名前はキンピン(メス)
たいして可愛がりもせず、粗末に扱ってきたため、水も汚れてフンまみれ、
しかし彼女は生き続け、20cm以上になっていた。
僕は、水槽の蓋を開け、彼女を上から見てみた。
そのとき、僕の背筋がゾクゾクっとした。
汚れた水の中で、赤く光る彼女の背中は、怪しく、そして最高に美しかった。
「この子がきっと僕を救ってくれる」
そう信じて、赤い絵の具を取り出し、彼女をモデルに筆を走らせた。
楽しい!楽しい!楽しい!
そしてあっという間に金魚の大群が生まれた。(これだ!)
僕の探していた答えが、ヨーロッパでもなく、アメリカでもなく
まさに、この部屋にあった。
僕は、この日の出来事を「金魚救い」と呼んで大切にしている。